顎関節症について1

顎関節症について

1.顎関節症ってどんな病気?

顎関節が痛い、音がする、口が開かない
これらの症状のある病気を一まとめにして顎関節症と呼びます。

 少しずつ噛み合せが崩れて行くことを咬合崩壊と云いますが、咬合崩壊は歯、歯肉、歯並び、顎位のズレなど色々な場所に様々な形で現れます。
もちろん全部に当てはまるワケではありませんが、私は咬合崩壊が顎関節や筋肉に現れたのが顎関節症だという捉え方をしています。
 このように考えることによって顎関節症に対して従来よりも一歩高い次元から見る事ができ、より的確で無駄の少ない診療が出来ると考えています。
患者さんはより少ない治療介入でより良い治りを得られるのです。

2.顎関節症に対する私のスタンス

 顎関節症の治療も他の全ての診療と同じで

  • 自分がしてもらいたい診療をする
  • 病気の大元を考える
  • 長い目でみる

という姿勢に変わりはありません。
 私が顎関節症患者だったら、先ず自分が今どんな状態にあるのか、治すにはどのようなやり方があり、自分では何をすれば良いのかを知らせてもらいたい、そして私に受け入れられる方法を一緒に考えてもらいたいです。
その為に、先ずはちゃんと診て欲しいし、その結果を伝えて欲しいと思います。
私が高血圧や糖尿患者ならば食事や運動療法など自己管理によって改善できる事があれば努力するでしょう。
もし、顎関節症でも同様のことがあるなら、それを教えて欲しいし、一方で、望ましい治療法があるなら、それは受けたいと思うと思います。
長くかかっても良いから長い目でみて良いと思われる方法を好みます。
ただ、誰もが自分と同じように思えるかどうかは人によって、その時の事情によっても異なると思います。その時その時で無理のないようになさるのが良いのでしょう。

3.顎関節症の痛み

顎関節症の痛みには顎関節自体の痛みと顎を動かす筋肉(咀嚼筋)の痛みがあります。

顎を動かしてみて、どんな時に痛むのか自分で調べてみましょう。
顎の関節や咀嚼筋の痛む所を指で押さえてみましょう。
「アッここだ!」という場所がみつかりましたか?

4.顎関節症の音

 顎関節の音にはカクカク、ガクガク、ザリザリなどの種類があり
顎関節の運動メカニズム及びその時の病態や進行状況と関連していますので、ケースバイケースですが、音の種類は私達に幾つもの情報を与えてくれます。

 また、最初にその音がした時期も大切な情報で、最近のものほど治り易いという傾向があります。
以前は音がしていたがやがてしなくなった、という場合もあります。

 痛みとは違って、音がするだけだと特に苦痛がないために放置しやすいのですが、放置すると治療の時期を逃してしまう事がありますので、音がし始めた時に診察を受けるようにしてください。

5.クリック音の発生原理

 顎関節の構造的な特徴として関節円板という他の関節ではあまり見る事の出来ない構造物があります。(下図)

顎関節、関節円板

正常な顎関節の構造 

黄色で示したのが関節円板

 噛むときの顎の動き方は動物によって異なり、肉食動物は開閉運動が主体で、犬や猫はほとんど蝶つがいのようなパクパク運動しかできません。
 牛やヤギなどの草食動物は草を磨り潰す為の臼磨運動が主で、モンゴリモンゴリと横方向に噛みます。
ヒトは雑食に適したようにパクパク、モンゴリどちらでも出来ます。しかしその分だけ複雑な構造とそれに伴う機能を背負い込むことになってしまったのです。
 関節円板は下顎頭の上にベレー帽のように被さっていて、下顎の複雑な動きに沿ってスムーズにシンクロナイズしています、ベアリングのような役目を果たしているのです。

 しかし、不自然な動きや負担過重に耐えかねて、円盤が下顎頭からズレてしまうことがあります。これが音がする原因のひとつです。

顎関節、関節円板

音がするときの顎関節

関節円板(黄色)が変形・脱落している

 口を開ける時にコキッと音がするのはズレていた円盤が下顎頭の上に整復する時の音です。
次に、噛みこむ直前に再び音がする事がありますが、こんどは円板が再びズレる時に発生する音です。
 噛むたびにアゴがカクカクするのはこのように円板が落ちたり乗ったりするからなのです。
顎関節の音には他にも種類があり、ザリザリという音は関節内の骨どうしがこすれあう音で、変形性顎関節症と言われる状態です。

 その他、口を最大に開けた時にコクッと云う感じの音がするのは、下顎頭が上あごの骨の突起部分を越える時のもので、これは健常な状態です。

6.口が開かない

 口の開かない理由には関節の不具合による場合、筋肉が痛くて口が開かない場合、その両方の場合があります。
筋肉の場合は先述のように自分で押さえてみるだけでも分かります。
関節の場合は、痛くて開かない場合と関節の中でひっかかる感じで開かない場合があります。

7.顎関節症の原因

一般に関節は運動器官ですのでその関節が、

  • どのような動きをしているか
  • どのように無理な力がかかっているか

それが分かれば、障害の原因が明らかになってきます。

顎関節においては、

  • 噛み合わせ
  • 噛み方
  • 誤った身体の使い方

の三者が障碍と深く関係しています。

*誤った身体の使い方(例えば口呼吸や寝相など)は身体に不自然な力をかけ、身体を歪める原因になります。
歯列不正はかなり頻繫に生じますし、顎関節にも影響が及べば顎関節症になってしまう訳です。

顎関節は噛む、飲む、喋るという働きに関わっています。
ですから 噛む、飲む、喋るという動作がまともに出来ないと顎関節に障害が起きる可能性があります。
これらの動作がどうして出来ないかが解れば治りへの扉が開かれていきます。

「噛む、飲む、喋るがまともに出来ない」理由は主に下記の2つがあります。

  1. 形態的な理由・・・例えば歯が抜けたままになっているために、当たり前に噛めない場合がそうです。
  2. 誤った身体の使い方をしている場合・・・例えば片側噛みのクセがそれにあたります。

ほとんどの場合、両方を備えています 貴方の場合はいかがでしょうか?

8.顎関節症の一般的な経過

関節障害は一般的に図のカーブのように推移すると考えられます。
(斜線は未発症ゾーン:病態はあるものの発症しない領域)
顎関節症もほぼ同様な経過を辿ると考えられます。

斜線よりも下方が障害として自覚されるゾーンです。
適応能力には個人差が大きく、ある程度悪化した状態でもあまり問題として自覚されないまま未発症ゾーン内で経過する場合もあります。

9.顎関節症の治り

 他の関節と同様、顎関節症でもある限度を越して進行したケースでは元通りに治るというワケにはいかないことも少なくありません。
しかし、治療とセルフケアによってカーブを未発症ゾーンに持ち上げる事ができれば無理をしなければ日常生活に困らない状態が得られますので、当院ではこの状態を治療のゴールとしています。

 私事ですが、私はずっと膝が悪いので以前のように無理はできません。でも山歩きやバードウォッチングなどをエンジョイした暮らしをしています。
 一病息災と云うように、どこかに問題があっても必要なだけの治療を受けたら、その後は適切なセルフケアによって日頃はその事を忘れている、というのが良いのではないでしょうか。

10.顎関節症の診査

先ほど、

  • どこが、どんなふうに痛いのか、
  • どんな動きをしたら音がするのか、
  • どんな具合に口が開かないのか

について述べました。

 これらを「噛む、飲む、喋るがまともに出来ない」理由と重ね合わせて考えていくと、顎関節症の状態が明らかになってきます。
虫歯や歯周病、噛みあわせの状態や顎の位置のズレなどがどうなっているか、実際にガムを食べてみて顎関節がどんな動きをしているかをコンピューター上で調べたり、CT・X線・MRIなどによる診査をします。

さらに、誤った身体の使い方の診査も行います。

11.咬合崩壊の診査を優先するのが得策

 顎口腔機能不全に陥り、噛み合わせが崩れる事を咬合崩壊と言います。
病気はその人の弱点を突いて現れるものですが、咬合崩壊も同じで、人によって歯の損傷、歯周病、歯列不正、顎関節症、顎のズレなど様々な形で(現実にはほとんどその複合として)現れます。

 ですから顎関節症の診断では咬合崩壊の診査診断を優先するのが得策です。
どのように咬合崩壊していて、その中で顎関節にどのような問題が起きているのかを正しく把握することによって、最小の処置で最大の治りが得られます。

12.診査の内容は次のようなものです

一次診査

  • 問診
  • 動態診査
  • 誤った身体の使い方(クセ)の診査
  • 写真(姿勢・顔貌・口の中)
  • CT
  • レントゲン
  • 模型

二次診査

  • MRI
  • レントゲン
  • コンピューターによる咀嚼運動・咬合力などの機能診査
  • 重心動揺計

 これらによって今までの経過、どこに、どんな具合に、どのくらい問題があるのか、それが形や動きとしてどう現れているか、また、誤った身体の使い方がどう影響しているのか等を知る事ができ、的確に治療に生かす事が可能になります。 

13.顎関節症の分類

 顎関節症は咀嚼筋の障碍に始まって、徐々に関節内の障害が進むと考えられており、進行のステップによって次のように3つに分られています 。

I~II 型

関節に大きな問題はなく、筋肉症状が主の状態

III 型

関節内でベアリングのような役目をしている関節円板が不調を起こしている状態
(関節円板については「クリック音の発生原理」の所でご説明しています)

IV 型

関節円板が整復不能になって、関節を成す骨と骨がじかに接するようになった状態(変形性顎関節症)

14.顎関節症の治療の考え方

 顎関節症が咬合崩壊の過程で起きる現象の一側面である、という見方から
顎関節症の治療では、いま起きている顎関節症状への対処に並行して咬合崩壊という視点に立って対応するのが賢明だと思います。
 たとえば歯並びが悪いと不自然な噛み方をしてしまいますが、これが原因になって関節をこねるような動きをしてしまっているならば歯列不正を改善して、正常な噛み方が出来るようにすることが顎関節の治療でもあるわけです。

 一般に、関節の障害は正常機能を阻んでいる原因を正し、正しい動かし方を身につければ治りに向かいます。
顎関節症の場合も同じで、スムーズな顎運動が出来るようにしてまともな噛み方・飲み方・喋り方が出来る状態に戻すことによって、大部分のケースにおいて日常生活を支障なく過ごせる状態に回復できます。

15.治療の目標設定と治りのレベルについて

  • #1 痛みなど、主訴だけへの対応 
  • #2 必要最小限の対処
  • #3 咬合崩壊への対処など全体的な対応

 一般的には、#1よりも#2が、さらに#3の方が治りもよく、経年的にも安定した治療効果が得られます。
例えば、#1のレベルの治療では、治療の達成目標の低い分、再発などの率は高くなります。
ですが面白いもので、先述の適応能力の個人差によって#1の処置だけで済んでしまうこともあり、必ずどれが良いと言うことはできません。
 #1~3のどれを選ぶか、そして適応能力がどうなのかは個別の問題ですから「貴方の場合はどうか?」それを見極めながら治療にあたります。

治療レベルによる治りと再発への一般的な推移

橙色 #1 主訴だけへの対応
緑   #2 必要最小限の対処
赤   #3 咬合崩壊への対処など全体的な対応

16.治療の骨格

 今までの顎関節症の治療ではもっぱら歯科医が治療を行い、患者さんは治療を受けるだけというスタイルでしたが、 誤った身体の使い方が咬合崩壊の原因として重要であるという事が分かってからは、クセを治すことを顎関節症の有力な原因療法として位置づけ、 これを患者さんが “自分で行う治療” として重視するようになりました。
 歯科医の治療と貴方ご自身によるクセのセルフケアが上手く噛み合うことによって、今までよりもずっと楽に、安全に、何よりも確実に治るようになりました。
 実際、きちんとセルフケアに取り組む方は早く、よく治ります。治療と云うものは患者さんと私たちの二人三脚だと実感します。

17.クセを治すことが原因療法

 このHPの歯周治療の項をご覧いただければ理解していただけると思いますが、
歯周治療の経験から、しっかり口腔清掃をする人ほど治りが良く、再発も少ない事が分かっています。
細菌が歯周病の原因なのですから、細菌を減らすための口腔清掃が歯周治療のカギを握るのは当然です。
 顎関節症の治療でも同じことが言えて、寝相・片噛み・口呼吸に代表されるクセを治すことは原因療法として極めて重要です。
 貴方が、自分の事としてクセに取り組むことは治療の半分を自分で行うことになると思われませんか?
顎関節症の治療の半分を自分で行う、ということは、同時に段階ごとに自分の治療の意味を学びながら自分の治りを実感しながら治していく事でもあります。

「どうしてこうなったのか?」「どうすれば改善するのか?」 
・・・それらひとつひとつを自分で納得しながら治療が進むのですから、
セルフケアの仕方も自然に身に付き、やがて習慣になるのでとても良く治るのです。

 その結果として、再発が少なく、術後に何か起きた時の軌道修正も自分でできるようにもなります。
自分からセルフケアに取り組めば取り組むほど自分を助けているワケです。

18.診療の流れ

診査・診断→ 初期治療→ チェック→ 待機 or 定期健診 or 後続する治療
という流れです

 先ずよく診て、さし向き困っていることは何か、原因が何かを知り、
何をしたら良いのかを判断し、その上でいま背負っている負担から解放し、それに対する反応を診ます。これが初期治療です。
そこで初期治療の成果(改善の度合いや貴方のご意向など)を見直してみて終了・定期健診・後続する治療の3者からどれかを選択します。

19.「後続する治療」とは?

 状態によってはもっと踏み込んだ治療が望まれます。

先述のように咬合再構成の観点から顎関節症の治療を考えると、

  • 歯並びの悪さが顎の動きに影響を及ぼしている場合は機能回復を目的として歯列矯正が薦められます
  • 嚙み合わせを支えている歯が失われていれば義歯やインプラントによって顎の支えを回復する必要があります。
  • 顎の位置がズレている事が(顔貌や姿勢などに波及する)歪みをもたらしていれば、その人本来の顎位に戻す事が望ましいと思われます。

これらの治療の目的は顎関節症がより良く治り、
進行や再発の少ない安定した状態を得るための条件を整えることにあります。

このような対応の考え方は顎関節症を治すと同時に咬合崩壊を治すことでもあるわけです。

20.治療の進み方

 一般的に長い経過を辿ることの多い顎関節症では、一気に全面解決というワケにはいかないのが普通です。

もつれた糸を解きほぐすように、
正しい身体の使い方が身に付き、噛み合わせの治療が進むに従って、少しずつ治ってきます。

抱え込んでいた負担から解放されることによって身体は自然に治る力を現してきます。
治療の進んだ分だけ、治っていくのです。

そうした身体の微妙な変化を知るために
診療の折々に症状の推移や感触について聞き、話しあい、必要な場合は検査をします。
その結果、次に何をどうすれば良いのかが分かってから柔軟に次の方針を考えます。

言い換えれば、予定通りに、パッと新品同様に治ると思わないことです。
機械の修理とは違って、私たちは生きているからです。
生きている人間どうしが気持ちを通わせて治して行こうとする行為を重ねて治りを導き出すのです。

21.診療の考え方

 誰にも個人的な事情や考え方があり、時によっては困っている事だけ解消してもらいたい場合もあり、根本からしっかり治したいと思える時もあるでしょう。
 先にも述べましたように、治すという行為は患者と術者の人間的な営為であり、心が通うかどうかという事が治りに深く関わります。
例えば、患者さんが10人いたら10の治療目標、10の治療方法があり、診療に際しては、よく話しあいながら、治療目標やゴールを設定し、その人にとって最良の結果を得ることが大切だと思っています。

22.術後のメインテナンス

 歯周病では術後の適切なメインテナンスがたいへん有効で治療の成果を維持し、未然に再発を防ぐ上で欠かすことの出来ないものになっています。

顎関節症でも同じことが言えて、再びクセがついていないか、咬合崩壊が再発し始めていないか、などをチェックすることによって、治療の成果を維持していただきたいと思います。

23.クセが何故悪い

 歯は、隣りの歯や相手の歯と支えあい、同時に舌や頬による力も受けて、全体としてバランスの取れる位置を求めてポジションを変えていきます。
歯にとってはそれが生き残るための方法だからです。
ですから、口唇の力の強い人の前歯は引っ込んで並びますし、弱い人では歯が出気味になります。
また、頬杖の習慣によって横からの力を受けると歯は内側に倒れてしまいます。
このように歯はかかる力によって位置的変化を起こすのです。
歯は垂直的な力にしっかり耐えるようにできていますが、横からの力には驚くほど弱い、という性質があり、歯科矯正治療はこの性質を上手に利用しているのです。
寝相、片噛み、口呼吸などのクセによって横からの力がかかり続けると歯が倒れてしまうのは横からの力に弱いという歯の性質によります。

 結果的にアーチの形がV字型に変形したり、前歯が飛び出たり、ガタガタになったりします。
さらに、口の内外から歯にかかる力は顎の位置をズレさせる事にも繋がります。
こうして生じた歯並びの崩れが歯列不正ですし、咬合崩壊そのものであるわけです。
このような悪循環はさらなる咬合崩壊の原因にもなります。

クセが咬合崩壊の原因であり、クセを治すことが原因療法だと言ったのはこういう事だったのです。
クセの概念の導入によって顎関節症は今までよりもっと楽に、しっかり治せるようになると考えています。

24.代表的なクセ

口のクセ
  • 片噛み
  • 口呼吸
  • 常に歯を噛み合わせる
  • 歯を食いしばる
  • 歯軋り
  • 口唇を絞る
外から力をかけるクセ
  • 寝相:うつ伏せ寝、横向き寝
  • 頬杖
  • 体操座り

25.顎関節症の予防

  • 母乳をしっかり吸わせて口腔周囲の筋肉を鍛え、関節の発育も促す
  • 発育時に噛み応えのある食物をしっかり噛む習慣をつけて顎を発育させる
  • 左右バランスよく噛む習慣をつける=片側噛みをしない
  • クセに気づき辞めるように心がける
  • 虫歯、歯周病、歯列不正や片方でしか噛めない状況を改善する

26.顎関節症と精神心理的な問題との関連について

 顎関節症には精神心理的な問題とを絡めて捉えようとする向きもありますが(実際、私の経験でもそのようなケースに出会ったことはありますけれど)、 基本的に関節の病気は関節の問題として捉える事をベースにしています。
実際には、顎関節症患者さんに限らずどの人に対しても常に精神心理的な面について配慮してはいるのですが、顎関節症で見られる症状はメカニックな現象なのですから、先ずはこの方向からアプローチするのが無理がないと言えます。
過去に治療者から精神的な問題とされた事を遺憾に感じている人は少なくありませんし、そうした人が通常の診療で緩快した事も経験しております。

27.不具合とのお付き合い・・・安心してください

 ここでは顎関節症の説明をしましたが、顎関節症に限らず広く病気や怪我などとのお付き合いについてお話したいと思います。

病気や故障を抱えると治りたい気持ちが優先して、つい自分に都合の良い事を考えてしまい勝ちです。それで、医師に治してもらう受身の気持ちや特別なテクニックや薬に解決を求める気持ちが働いてしまい勝ちです。
 私は自分自身の体験から、良い事であれ悪いことであれ、全ては自分が言った事やしてきた事の結果だということに気づいています。
ずっと悩まされ続けてきて、今もお付き合いせざるを得ないでいる睡眠障害は「あれもしたい、これもしたい。」と頑張ってきた私の欲のせいです。その欲のお陰でたくさんの仕事をこなすことが出来ましたし、知識・技術を高めることが出来たのですが、その代わりに独りでじっと眼を開けていなければならない夜を受け入れなければなりませんでした。

 顎関節症に話しを戻しましょう。
既に説明しましたように、この病気にはメカニックな要素が強いために何らかの形で治療介入を余儀なくされる事が多いのは事実です。
そうした場面では術者の力が問われますが、それと同時に患者さんが自分で治す事がベースでもあり、根本療法でもあるという面があります。

 ここで患者さん自身のスタンスが大切になります。
病気は、自分でしっかり認識して、自分の事として受け止め、取り組む人ほどよく治ります。

  ダイエットを例にとってみるとよく分かるように、健全に痩せるためには自分で汗をかくことが肝要ですし、ダイエットが必要になってしまったそれまでの暮らし方に目を向けて、そこから立ち上げて取り組んだ人が成果を得ます。その過程での気づきから自分に合った暮らし方、自分の体質に合ったほどほどの肥満度が分かってきて、それとのお付き合いが始まるのです。
でも、傍目にはダイエットが必要かな(笑)と思われるのに朗らかで元気な方はいくらでもいらっしゃいます、、、決めつける事は禁物ですね。

 顎関節症のような病気は新品同様に治るようなものではありませんが、その代わりに貴方の顎関節症が貴方をひどく苦しめない範囲でいてくれて、「これ以上は無理だよ」とアラームサインを送ってくれる存在である限りはそんなに悪いことでは無いかもしれません。
一病息災、と言います、自分の中にそのような部分があることはマイナスばかりではないと思うのです。
はち切れるような健康に恵まれた人は天に感謝しましょう。
ですが、故障や病気と折り合いながら生きていくのもまた渋いものではあります。
人の痛みや切なさをそのまま分かってあげられるようになり、一緒にやって行こうという気持ちは同じような経験をしたことがある人には自然と涌いてくるものだからです。

ここで具体例をひとつあげておきましょう。

患者さんは85歳の女性です。
健常なCT像と見比べると明らかなように、顎関節は骨に著しい変形が認められ、顎関節症としては進行した状態ですが、現在は特に症状はありません。
このように人間には病を治す力と病と折り合う力が備わっているのです。

A.この患者さんのCT像
 原型を留めないほど骨が変形している

B.健常なCT像